先日クラフトワークを聴いていてふと思ったことがあります。それは「電卓(pocket calculator)」の日本語詞は誰が書いたんだろう?ということ。
というのもこの日本語詞、妙に洗練されているんですよね。直訳じゃないというか。明らかに日本語話者で、かつ作詞の素養がある人が書いたように感じます。
直訳すると
ドイツ語が分からないので英語版から抜粋すると「pocket calculator」の歌詞はこんな感じ。
I’m the operator with my pocket calculator
I’m the operator with my pocket calculator
I am adding and subtracting
I’m controlling and composing
By pressing down a special key, it plays a little melody
By pressing down a special key, it plays a little melody
これをgoogleで翻訳してみると
私はポケット電卓を持ったオペレーターです
私はポケット電卓を持ったオペレーターです
足したり引いたりしてます
私はコントロールと作曲をしています
特殊なキーを押すと小さなメロディーが流れます
特殊なキーを押すと小さなメロディーが流れます
このようになります。
まあ直訳だとこんな感じですよね。
実際の日本語詞
そして実際の日本語詞は
僕は音楽家 電卓片手に
僕は音楽家 電卓片手に
足したり 引いたり
操作して 作曲する
このボタン押せば 音楽奏でる
このボタン押せば 音楽奏でる
「電卓片手に」という言い回しとかもスマートだし、曲の節に合うように綺麗に意訳されている感じがします。the operator を「音楽家」にしているのもすごくないですか。これは日本語を知らない人が辞書を引きながら書いたのでは生まれない歌詞だと思います。
それと上のGoogle翻訳のように「メロディ」とかカタカナ英語を使わないで、すべて日本語にしてるところも訳者のこだわり(もしくは依頼したクラフトワークのこだわり?)が感じられます。
誰が書いたのか?
これはさぞかし高名な方が日本語詞を書いたのでは?と思ったのですが、パッと調べた感じでは分かりませんでした。
wikipediaを見てみると、日本語版が存在すること・収録の際にドイツ在住の日本人が発音の指導をしたことには触れているものの、日本語詞の作者については言及がありません。
ドイツ語版の『Taschenrechner』の他、英語版の『Pocket Calculator』、フランス語版の『Mini Calculateur』、日本語版の『電卓』という、公式に4つのバージョンがリリースされており、他にイタリアのテレビ番組で披露されたイタリア語版の『Mini Calcolatore』などが非公式に存在する。
電卓の国・日本を意識した日本語版がメジャーなバリエーションの1つであることが特筆される。そちらの収録の際に日本語の発音を指導したのはドイツ在住の日本人だったというエピソードがある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%8D%93_(%E6%9B%B2)
さらにいろいろ調べていると、このようなツイートを発見。
【電卓】
— リズム&ブックス (@Rhythm_Books) October 28, 2019
初期「Hot Dog」にあるトシ矢嶋さんの連載。クラフトワークのインタビューは1981年、リリース直後の「電卓」について…日本語版のきっかけはヒカシューの「モデル」/日本語訳はディスコで知り合った日本人/その日本人に仮歌もお願いし何度も聴いてボーカル録りした/等々気になる記述アリ。 pic.twitter.com/5ondfxJGLy
1981年の雑誌「Hot Dog」でのインタビュー。ざっくりまとめると
・ヒカシューがカバーした「モデル」を聴いたことをきっかけに日本語訳をやってみることに。
・デュッセルドルフのディスコで知り合った日本人に日本語詞を依頼
・訳された詩を書いた紙を見ながら歌ったが上手くいかなかったので、結局その日本人が歌ったものを録音して覚えて歌った
という話。
この「ディスコで知り合った日本人」にそれ以上の情報がないので、本当に単に現地のディスコに来ていた一般の日本人だったんでしょう。
つまり先ほどのwikipediaに記載のあった『発音を指導したドイツ在住の日本人』こそが日本語詞を書いた人物だったということのようです。
彼がやった事はなかなかの偉業だと思うのですが、名前がクレジットされたりすることもなく、顔も名前も職業も、現在まで知れ渡っていないと思われます。名乗り出られない事情とかがあるのかもしれませんが、なんだかもったいなく感じてしまいます…。
坂本龍一説…?
余談ですが『「電卓(pocket calculator)」の日本語詞は誰が書いたんだろう?』とXにつぶやいたところ、「坂本龍一じゃなかった?」というようなリプライをもらいました。
しかし坂本龍一だったならば、上記の雑誌でも触れられていると思うので、違うんじゃないかと。
2012年の幕張メッセでのライブで演奏された『Radio-Activity(放射能)』で坂本龍一による日本語詞バージョンが披露されているので、そちらと混同しているのかもしれません。
これを聴くと、先の「電卓」の日本語詞がいかに洗練されていたかが分かりますね〜