シャーロック・ホームズを読んでいると気になることのひとつに、お金の単位がやけにいっぱい出てくる事があります。
「ボヘミアの醜聞」の短編1話だけでもクラウン、ペンス、ギニー、ポンド、ソブリンと5種類も出てきます。今回はなぜそういうことになるのかをはっきりさせたい、という記事です。
出てくる場面抜粋
まずシャーロック・ホームズの短編を何話かさらって(全部ではないです)、お金の単位が出てくる場面を挙げてみました。例によって無料で読める「コンプリート・シャーロック・ホームズ」の該当部分が載っている部分へのリンクを貼ってあります。
ペニー
すべてのポケットに1ペニーと半ペニー硬貨が詰められていた。421枚の一ペニー硬貨と270枚の半ペニー硬貨だ。
https://221b.jp/h/twis-5.html
ペンス
僕は馬を磨くのを手伝い、その見返りとして、2ペンス銅貨とハーフ&ハーフを一杯、安い刻みタバコを2服、そして、アドラー嬢に関して知りたいことをすべて入手した。
https://221b.jp/h/scan-6.html
私はタイプライタの収入で十分やっていけます。一枚打つと2ペンスになり、一日15枚から20枚は打つことも多いですから
https://221b.jp/h/iden-2.html
7時間私は精を出して働きました。そして夜になって家に帰って、驚いたことに26シリング4ペンスも稼いだことに気付きました
https://221b.jp/sa/twis-11.html
シリング
ここで、彼の現時点での負債を付け加えると、はっきり確認できた範囲では合計88ポンド10シリングだ。
https://221b.jp/h/twis-4.html
「12月22日。24羽のガチョウ 七ペンス六シリング」
https://221b.jp/h/blue-5.html
「アルファのウィンディゲート氏に販売 12シリング」
https://221b.jp/h/blue-5.html
クラウン
「これを書いた男は金回りが良い」私は頑張ってホームズの手法を真似ながら言った。「一冊半クラウン以下ではこんな紙は買えない。妙に強くてごわごわしている」
https://221b.jp/h/scan-3.html
ソブリン
『20分で着いたら半ソブリン』
https://221b.jp/h/scan-6.html
「自分が正しいと分かっているから、単に君から金を巻き上げるだけだがね。しかし偏屈になるべきじゃないという勉強代に一ソブリン賭けよう」
https://221b.jp/h/blue-5.html
ギニー
「上等な小型四輪馬車に見事な馬が二頭か。一頭150ギニーはするぞ。
https://221b.jp/h/scan-3.html
『最初にリージェント街のグロス&ハンキース、その後、エッジウェア通りのセント・モニカ教会。20分で行けたら半ギニー』」
https://221b.jp/h/scan-6.html
ポンド
「金で300ポンド、紙幣で700ポンドある」ボヘミア王は言った。
https://221b.jp/h/scan-5.html
形だけの勤務で、週に4ポンドの給与を得る資格がある組合員の欠員が1名発生。
https://221b.jp/h/redh-3.html
収入を合計すると、妻の死んだ時点では1100ポンド足らずというところだったが、その後、農産物価格が下落して、現在では750ポンドにも届かない。二人の娘は、結婚したとき、それぞれ250ポンドを要求できる。
https://221b.jp/h/spec-6.html
さて実際にいろんな単位が使われているのが分かったところで、各単位の意味するところを自分の調べた範囲で説明したいと思います。
ペニーとペンス
まずは「ペニー」と「ペンス」について。これは単にペニーの複数形がペンスでした。
従って
すべてのポケットに1ペニーと半ペニー硬貨が詰められていた。421枚の一ペニー硬貨と270枚の半ペニー硬貨だ。
のように硬貨1枚ずつを指す場合は「1ペニー硬貨」というような言い方になり、
7時間私は精を出して働きました。そして夜になって家に帰って、驚いたことに26シリング4ペンスも稼いだことに気付きました
というような場合は「ペンス」になるというわけです。
ちなみにアメリカとカナダでは1セント銅貨のことを「ペニー」と呼ぶようです。ややこしいですね。
ポンドとシリングとペニー
ポンド、シリング、ペニーは同じ通貨単位(の補助単位)のようです。日本でいうと「円」と「銭」みたいな関係です。
こちらの記事によると
当時のイギリスでは、ポンド、シリング、ペニーという通貨単位が用いられていました。1ポンド=20シリング、1シリング=12ペンスです。(※ペンスはペニーの複数形)
なので
ここで、彼の現時点での負債を付け加えると、はっきり確認できた範囲では合計88ポンド10シリングだ。
こういう言い方になるわけですね。「88円10銭」みたいな、、、
この ポンド>シリング>ペニー
が基本的な通貨の単位であることを頭に入れておくとこれ以降の話が分かりやすくなると思います。
ソブリン
では以上を踏まえて、「ソブリン」は何なのかというと通貨の単位というよりも「金貨の名前」という感じです。
1ポンド(=20シリング)の価値のある金貨のことだと思っておけばよいかと。
10シリングの価値の「半ソブリン金貨」もあったようですね。
wikipediaから引用すると
この金貨はそれまで流通していた天使を描いたエンゼル金貨に対して、玉座に坐る国王が描かれたため、ソブリン(君主)と名づけられた。
(中略)
イギリスが金本位制を採用した1816年貨幣法で新しい本位金貨が制定され、これをソブリンと名づけ1817年から鋳造された。鋳造開始は1817年であったが、実際に紙幣との兌換が開始されたのは1822年であった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%87%91%E8%B2%A8
馬車の御者に対する
『20分で着いたら半ソブリン』
というセリフはつまり20分で着いたら10シリング(の価値の金貨を1枚)あげるということですね。
こういう急いでいる場面では金額でなく金貨の種類で提示したほうが手っ取り早いのはなんとなく想像がつきますね。
渡す時もホイッと金貨を一枚渡して走り去ればいいですし。
ギニー
ここまでの話が分かれば後は同様で、ポンド・シリング・ペニー以外はお金の単位というよりも金貨の種類を表していると考えていいと思います。
ギニーはwikipediaを読む限りでは「ソブリン金貨の前に使われていた金貨」と考えて良さそうです。
価値としては1ギニー=21シリング(1ポンド1シリング)=252ペンス。
「ギニー」って語感が「ペニー」と似ていて小銭っぽいイメージを持ってしまっていたんですけどむしろソブリンより高価なのです。
1816年には、新しいソブリン金貨(1ポンド)に取って代わられたが、1971年の十進法移行までは医師や弁護士への謝礼、品物の鑑定料、土地、馬の取引等の名目単位として使われていた。現在競馬の競走(2000ギニー、1000ギニー)にその名を留めている。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%8B%E3%83%BC
シャーロック・ホームズは1880〜90年代ぐらいの話なのでもうソブリンが一般的になっている時代だと思われますが、「医師や弁護士への謝礼、品物の鑑定料、土地、馬の取引」に関することなどでは、まだギニーが使われていたのでしょう。
上等な小型四輪馬車に見事な馬が二頭か。一頭150ギニーはするぞ。
この場面なんかはまさしく馬の値段に関する話なのでギニーが使われているのだと思います。
先ほどソブリンの項でも出てきた御者に対して金額を提示する場面では、ホームズとアイリーン・アドラーは「半ソブリン」を提示していますが、ゴドフリー・ノートンは「半ギニー」を提示しています。
『最初にリージェント街のグロス&ハンキース、その後、エッジウェア通りのセント・モニカ教会。20分で行けたら半ギニー』
ゴドフリー・ノートンは弁護士なので、「医師や弁護士への謝礼」にはギニーが使われてたとするとノートンだけがギニーを使ったのも納得。
それからホームズとアドラーは直接セントモニカ教会へ行ってるのに対しノートンはリージェント街にも寄っているので、前述のように1ソブリンは20シリングの価値・1ギニーは21シリングの価値ということを踏まえて考えるとノートンのほうが寄り道の分ちょっとだけ(6ペンス分)多く払っているという見方もできるかも?
クラウン
クラウンも同様に硬貨の呼び名ですがこちらは銀貨。クラウン銀貨1枚で5シリングの価値です。
一冊半クラウン以下ではこんな紙は買えない。
ワトソンは「瀕死の探偵」でもポケットに半クラウン銀貨を5枚持ってますので、日常的によく使っている硬貨だったのかもしれません。
まとめ
というわけで大雑把に覚えるとすると
・ポンド(大)
・シリング(中)
・ペニー/ペンス(小)
が通貨の単位。
そしてそれ以外は通貨の単位というより硬貨の名前。
・ソブリン 一般的に使われている金貨。1ポンドの価値。
・ギニー ソブリンより以前に使われていた金貨。1ポンド1シリングの価値
・クラウン 銀貨。5シリングの価値。
という感じです。
それを踏まえて「じゃあ現在の価値でいうといくらぐらいなの?」というところは先ほどのこちらの記事などいろいろなところで書かれているのでググったりしてみてください!