
ピンクフロイドのロジャー・ウォーターズ在籍時の最後のアルバムとなった「The Final Cut」。このアルバムのWikipediaの記事について、個人的にずっと気になっていた記述があったんだけど、今日ふと見てみたら修正されていました。
編集履歴が残っているのでそこからその気になっていた箇所を引用すると
それまでウォーターズが追求してきた社会批判の歌詞は、このアルバムで究極の形を見せている。楽曲のメロディはあまり意味を成さず、ウォーターズのボーカルも呟くような悲痛な歌い方で、全体的に重い印象は拭えない。唯一「Not Now John」ではギルモアがリード・ボーカルを務め、爆発するようなロック・サウンドを聴かせている。サウンド技術の面では「ホロフォニクス」と呼ばれる立体音響システムを導入しており、奥行きのある音作りに成功している。
この部分。特に気になるのは
楽曲のメロディはあまり意味を成さず、ウォーターズのボーカルも呟くような悲痛な歌い方で、
というところです。実際にアルバムを聴いてみればわかりますが「メロディはあまり意味を成さず」なんてことはなくしっかりメロディがあるし、呟くようなボーカルの部分も無くはないですが逆にエモーショナルに歌い上げる部分も多いです。
「全体的に重い印象は拭えない」も執筆者の印象の話でしかなく客観性に欠けます。
それに続く『唯一「Not Now John」ではギルモアがリード・ボーカルを務め、爆発するようなロック・サウンドを聴かせている。』という部分からしてもこの記事はかなりギルモアびいきな人が書いたんだろうな、と思いながら読んでいました。
ギルモアが好きな人がウォーターズ色の強い「The Final Cut」を好きになれないのは理解できるんですが、その私怨をWikipediaに載せてしまうのはなんか違うと思います。
修正されていた!
今日ふと久しぶりに「Final Cut」のWikipediaの記事を見に行ってみると、件の部分が書き換えられていました。
アルバムの全13曲は全てロジャー・ウォーターズ一人のみのクレジットであり、リード・ヴォーカルも1曲を除いてウォーターズによるものである。「ノット・ナウ・ジョン」はギルモアがリード・ボーカルを務めたロック・ナンバーで、シングルとしてもリリースされた。サウンド技術の面では「ホロフォニクス」と呼ばれる立体音響システムを導入しており、奥行きのある音作りが行われた。
・ほとんどの曲のボーカルがウォーターズであること
・「ノット・ナウ・ジョン」ではギルモアがリードボーカルであること
が書かれているという意味では同じですが主観的な要素が削られています(同時にあまりに無味無臭になってしまったというか、文章としての読み応えみたいなものも削られてしまった感はありますが)。
編集履歴を見てみるとこの修正が行われたのは2022年4月。「楽曲のメロディはあまり意味を成さず〜」のくだりはこの記事が初めに書かれた2006年2月当初からあるので、実に16年もの間掲載されていたことになります。
音楽雑誌にライターが書く記事であれば修正前のものでも全然いいと思うのですが、Wikipediaの記事としては修正後の方が客観的で納得がいく気がします。
ちなみに同時に
後のインタビューで、デヴィッド・ギルモアは「アルバムにまともな曲は3曲ぐらいしかなく、収録された曲には『ザ・ウォール』のアルバムから出来が良くないとして収録されなかった曲も流用している」と批判している。
という部分も削除されています。これもギルモアびいきというか当初の筆者のファイナルカット嫌いが表れた記述ではありますが、出典が明らかであれば(事実であれば)残しておいても良かったのでは。
特に「ザ・ウォール」のボツ曲が流用されているというのは、「ザ・ウォール」が好きな人にとっても有用な情報だと思います。
聴かずに敬遠しないでほしい
この16年の間にもしかしてこの「楽曲のメロディはあまり意味を成さず〜」のせいで「The Final Cut」を聴かずに敬遠してしまった人がいるかもしれないと思いませんか。
これから先はそういうことがなくなるとすれば、いいことなんじゃないかと思います!