※この文章は「笑って人類!」発売当初に書いたのですがメモ帳に書いたままボヤボヤしているうちに時間が経ってしまいました。2023年3月ごろに書かれたものとしてお読みください。
爆笑問題ファン
僕は爆笑問題のファン(特に二人のラジオ「爆笑問題カーボーイ」のファン)なので、二人の活動には基本的に好意的だし応援しています。
先日も「爆笑問題カーボーイ」のイベントのチケットが運良く取れたので観に行ってきました。本当に最高でした。
そんな爆笑問題の太田光さんが先日小説を出版しました。タイトルは「笑って人類!」。
もちろん僕は発売日に買いました(電子書籍版)。
前二作よりかなり好き
太田さんの小説は「マボロシの鳥」「文明の子」に続いて三作目。
僕は太田さんのことが好きですが、前二作を読んでみて小説に関してはどうも好みが合わないというか、彼のナイーブな部分がストレートに文章に現れすぎている感じがしてどうにも苦手という印象がありました。
果たして今回はどうか…と読み始めてみると、面白い。少なくとも前二作よりかなり肌に合う気がします。まだ全体の10%ほどしか読んでませんが、個人的には間違いなく「マボロシの鳥」「文明の子」より好きです。
だけどやっぱり読んでいて喉に小骨が刺さったみたいに飲み込む時に違和感を感じるところが時々あるんですよね。本作の冒頭の一番最初の一文に、まさにそういう「小骨」を感じましたので以下に紹介させて下さい。
「耳をつんざくような」
嵐の夜。薄暗い部屋ではキキ! キーキー! という耳をつんざくような奇声と、ガチャガチャという金属音が聞こえる。叩きつけるような雨と猛烈な風。壁が時々ギシギシと音をたて、部屋全体が歪む。天井から吊るされたランタンが揺れている。
部屋の中央に白い手袋をした人の姿がある。
これが「笑って人類」の一番最初の部分です(Amazonの試し読みでも読める部分なので引用お許しください)。
もともと映画の脚本として書かれていたものということもあり、嵐で揺れる薄暗い部屋の中に謎の人物がいるというまさに映画のプロローグっぽいシーンなわけです。
ここで気になるのが、「耳をつんざくような」のところです。
このシーンでは部屋の中央にいる「白い手袋をした人」以外には人物は居ません。とすると「耳をつんざくような」音だと感じている「耳」は誰の耳なのか?「聞こえる。」って誰に?というところが変な感じがしませんか?
例えば
耳をつんざくようなクラクションの音で振り返ると、トラックが猛烈なスピードで和也の間近に迫って来ていた。
という文章であれば、「耳をつんざくような」の「耳」は「和也」という人物の耳であることがわかります。それに対して「笑って人類!」の先ほどの文章では、「耳」が誰の耳か分からない。「白い手袋をした人」の耳でしょというのも無理がある感じがする。
耳との距離感
それから「耳をつんざくような」には「耳」から「音」までの距離の情報が含まれているように思います。
例えば先ほどの「和也」の例文であれば、トラックのクラクションの音が「耳をつんざく」ぐらいの音量に聞こえるということは、それだけトラックが和也のすぐ近くまで迫っているという説明になっています。同じクラクションでも2キロ先で鳴っているならば「耳をつんざく」ことはない。
逆に遠くの山の向こうに雷が落ちて、その音が「耳をつんざくよう」に聞こえたとすればそれだけ落雷の音量が大きかったということが分かります。
「笑って人類!」の場合はその距離感も掴めません。
ストーリーは最高
もう少し先を読んでいくと、この「キーキー!」は「白い手袋をした人」の肩に乗っているオウムの鳴き声だということがわかります。肩に乗っているオウムが鳴けば耳元で響くので「白い手袋をした人」からすると「耳をつんざく」ように聞こえるとも解釈できるんですけど、この冒頭の部分はそういう視点ではない感じがします。
自分は文章の専門家ではないので「この場合〜〜という表現を使った方が適切です」みたいなことは言えませんし、この「耳をつんざくような」の使い方も間違ってるわけではないのかもしれません。
でも他のプロの小説家の人の文章を読んでいてこういう気持ちになる事ってほとんどないんですよね。
「重箱の隅をつつくようなこと言うなよ」と思うかもしれませんがこういう重箱の隅で読者の気が削がれてしまうのはすごくもったいない。
この部分以外にも、やっている事は面白いのにその説明の仕方がイマイチでもったいないという箇所がいっぱいある感じがしました。
もしかしてご本人はストーリーや情景を説明できれば細かい表現はあまり拘らないタイプなのかもしれません。
だからこういう所って編集者がもっと積極的にケアしてあげるべきなんじゃないでしょうか?
きっと同じようなもどかしさを感じている人が居るんじゃないかと思ってこの文章を書きました。
ストーリー自体は今のところとても面白いです。
「笑って人類!」、ぜひ読んでみてください!