スタミナ丼のセンターは誰だ

今住んでいる町をもうすぐ引っ越すことになりそう。なので引っ越す前にどうしても食べておきたいものがある。それは駅前の中華料理屋の「スタミナ丼」である。僕は数年ぶりのそれを食べながら、以下のような思いを巡らせた…。

AKB48の革新的だった事のひとつは、「センター」の存在をファン明確にしたことだと思う。
それまでのアイドルグループも「あ、今度の曲はこの人がメインなんだな」というのはあった。だけどその選考過程やそれを勝ち取るためのメンバー同士の競い合いというのは、むしろ隠すべきものとされていたように思う。
その部分を可視化し、「次のセンターは誰か」を大々的に競わせ話題にする。「センター」という言葉も今やすっかり定着した。

さて、「牛丼」のセンターは牛肉である。「カツ丼」のセンターはトンカツ、「マグロ丼」はマグロ。
では目の前のこの「スタミナ丼」のセンターは誰だろう。
スタミナ丼には明確な定義が無くて店によってご飯の上に載る具材はまちまちであるが、この店の場合は豚肉、キャベツ、白菜、人参、ネギ、たけのこ等の肉野菜炒めにとろみをつけてあんかけ風にしたもの上に、目玉焼きが乗っているという感じ。
いわゆる「中華丼」に、うずらの卵がない代わりに目玉焼きが乗っているものを想像して頂けば大体当たっている。

それでこのグループのメンバーの中でセンターは誰かというと、どうやら目玉焼きだ。間違いない。
このスタミナ丼と対峙した者は、この目玉焼きをどう攻めるかということを軸に戦略を考えることになる。一旦目玉焼きをすこしずらして下の具材に手をつけるのか、または目玉焼きは定位置のまま進行に合わせてそれを崩しながら食べるのか、どのタイミングで黄身に着手するのか…上に目玉焼きが載ることで、どこから食べても同じ味の中華丼とは違う戦略性が生まれる。
「前田敦子は本人が地味な分、他のメンバーを魅力的に見せる力があった」とテレビで評論家が言っていたが、この目玉焼きも同じタイプである。

思えば牛丼の牛肉にしろカツ丼のカツにしろ、他のメンバーに活躍の機会を与えようという気があまり感じられない。あたかも自分ひとりの功績でこのグループが人気を得ている、という顔をしている。
それに比べるとスタミナ丼の目玉焼きは、強烈なパワーがあるわけではないが自分以外のメンバーの良さを引き出す力を持ったセンター。
ああ、引っ越す前にこのスタミナ丼の何が良いのかを文章化できて良かった。

スタミナ丼