国土利用計画法とオウム真理教

最近、趣味で宅建の勉強をしてみています。僕は不動産とは全く関係ない仕事をしてますので本当に完全なる趣味です。

始めてみてわかったのですが宅建の勉強とはすなわち法律の勉強なんですね。むずかしいです。

いくら解説を読んでも具体的なイメージが沸かないと全然頭に入ってこない。そこでいろいろ実際の事例なんかを調べながら勉強したりしてるのですが、国土利用計画法に違反した実例として丁度よい題材を見つけました。

それがオウム心理教による国土利用計画法違反事件です。

波野村における国土利用計画法違反等事件

事件の概要を平成8年の警察白書第1章-第2節から引用すると、

教団は、崇拝するシヴァ神が統括する伝説の理想郷建設を目指す「日本シャンバラ化計画」の実践活動の一環として、波野村に教団施設を建設するため、同村内の約15万平方メートルの山林を買収することを計画した。平成2年5月、教団の顧問弁護士らは、建設用地を地権者から買収するに当たって、売買価格が総額5,000万円であるにもかかわらず、価格が著しく適正を欠くとして、熊本県知事から契約の締結を中止すべきであるなどの勧告を受けることをおそれ、同価格を総額3,000万円とする内容虚偽の届出を同知事に対して行った。しかし、その後、早急に施設の建設を進めるため、「土地はお布施である。」として同届出を取り下げ、虚偽の負担付贈与契約書を作成し、県知事への届出を行わないまま贈与を理由として同山林の所有権移転登記を行った上、土地代金の支払事実を隠ぺいするため証拠隠滅工作等を行っていた。これらの行為は、国土利用計画法違反(虚偽届出、届出義務違反)、公正証書原本不実記載・同行使罪及び証拠隠滅罪に当たる。

・虚偽届出
・届出義務違反

の2点で国土利用計画法違反に当たると書いてあります。

この事件について、宅建の勉強的な観点から、国土利用計画法の内容を確認しながら詳しく見てみたいと思います。

国土利用計画法とは

手元のテキストによると

国土利用計画法は、地価の高騰を抑制して、土地の有効利用を図ることが目的です。

と書かれています。

地価が急激に上昇したりその恐れがある土地の取引は、都道府県知事がチェックするぞ!という感じの法律のようです。

届出が必要な取引だったか

・どの区域だったか?

国土利用計画法では、国土を4つの区域に分けて、それぞれに条件をつけて許可または届出を求めています。表にするとこんな感じ。

①規制区域②監視区域③注視区域④無指定区域
投機的取引により、地価が急激に上昇しまたは上昇するおそれのある地域地価が急激に上昇し、または上昇するおそれのある地域地価が一定期間内に相当な程度を超えて上昇し、または上昇するおそれのある地域①〜③以外の区域
契約の当事者は契約締結前に都道府県知事の許可を得なければならない契約の当事者は契約締結前に都道府県知事に届出をしなければならない契約の当事者は契約締結前に都道府県知事に届出をしなければならない権利取得者契約締結日から2週間以内に都道府県知事に届出をしなければならない

とにかく地価が上がるかどうかで区域を分けているのがわかるかと思います。

熊本の山村が急激に地価が上昇するとも思えないので、この件でオウムが買おうとした土地は無指定区域の土地でしょう(調べてないけど)。そもそも現在の日本の国土はほとんど無指定区域のようです。

・面積要件

無指定区域の場合、面積によって届出が必要か否か判断されます(ちなみに③注視区域の場合も同じ面積要件です)。

市街化区域2000㎡以上
市街化区域以外の都市計画区域(市街化調整区域、都市計画区域の非線引き区域)5000㎡以上
都市計画区域外(準都市計画区域とそれ以外の区域)10000㎡以上

ざっくり言うと都会ほど狭い面積でも届出が必要な感じです。

まあこの事件に関しては、

同村内の約15万平方メートルの山林を買収することを計画した。

とあるので、余裕で10000㎡以上です。つまり都市計画区域外かどうか調べるまでもなく面積要件に該当します。届出が必要な取引です。

・事前届出?

先ほどの表にもあったように、2025年現在は、規制区域外の届出は契約締結後2週間以内の事後届出です。

しかし国土交通省のこちらのページによると、昭和49年~平成10年までは規制区域外の土地も事前届出が必要だったようです。

平成8年の事件ですから、当時この取引は事前の届出が必要だったはずです。

売買(など)でなければ届出不要

この法律は、最初に書いたように地価の高騰を抑制することが目的なので、対価の授受がないような取引は届出が要りません。

届出いる(土地売買等の契約に該当する)売買契約、売買の予約、交換、代物弁済、譲渡担保 など
届出いらない(土地売買等の契約に該当しない)贈与、相続、遺産分割、法人の合併 など

この事件では、一旦出した届出を取り下げて、負担付贈与契約として届出せずに所有権を移転していました。

「土地はお布施である。」として同届出を取り下げ、虚偽の負担付贈与契約書を作成し、県知事への届出を行わないまま贈与を理由として同山林の所有権移転登記を行った

この負担付贈与契約とは、こちらのページから引用すると

負担付贈与とは、「財産を無償で渡すことを条件として、何らかの負担をお願いする贈与」の形態を指します。例えば、以下のようなケースがあります。
・住宅ローンを組んで購入したマンションを渡す代わりに、ローンの残債を支払ってもらう
・親が毎月現金を贈与する代わりに、子に家事や病院までの送迎、介護等をしてもらう
・土地を無償で譲る代わりに、一部のスペースは自分で使わせてもらう

先ほどの警察白書には記述がありませんでしたが、この土地の売主には負債があったようです。wikipediaには、

地権者には1500万円の負債があり、この土地にも抵当権が設定されていた。地主側は5000万円でオウムに売却。負債をオウムが肩代わりし、差額3500万をオウムが地権者に現金で支払った。ところが地権者には更に500万円の負債が判明したため、地権者は売却価格3500万のうちから500万円をオウムに支払ったが、その際、教団京都支部信徒からの借入金であるように見せかけた。

とあります。
また、この事件についてまとめた書籍「オウム真理教とムラの理論(熊本日日新聞社 編)」から引用すると(Amazonで200円で買いました)、

教団側は、「土地は元地権者(五一)の借金を肩代わりする代わりに譲り受けた負担付き贈与で、知事への届出はいらない。元地権者に渡した現金三千五百万円は教団からの融資だ」と主張している

とのこと。同書籍には当時の新聞記事の内容も転載されているので1990年10月22日の夕刊から引用すると

県は、この土地に抵当権が設定されていたため、「地権者の借金の一部を肩代わりする、対価性のある負担付き贈与で、実質的な売買に当たる」として届出を求めたが、教団側は「届け出不要の対価性のない負担付き贈与。宗教上のお布施」として拒否。

とにかく前述のように贈与は売買ではないので届出が要りません。だから届出せずに所有権を移転していいのです!とオウムは主張したわけですね。

宅建試験への応用

という全体像がようやく見えてきたので、この知識を試験に活かせるようにしたいですね。どんな項目を覚えるのに役立ちそうかまとめてみました。

・どっちが届出?

無指定区域では、権利取得者に届出義務があります。この事件で土地を取得したオウム側が届出をしている事を思い出せば、取得者側が届出することを忘れないと思います。
ちなみにwikipediaによると、松本智津夫名義で届出したらしいです

教団はオウム批判をかわすため、当時あまり知られていなかった麻原彰晃の本名「松本智津夫」名義で、上記のとおり売買価格を偽り、密かに国土利用計画法に基づく届出を行った。

・複数の土地を買い集めていた場合

無指定区域の場合、複数の土地を一団の土地として買い集めた場合は合計の面積が面積要件以上なら届出が必要です。

例えばオウムがこの土地を一人からではなく複数の地権者から細かく買い集めていたとしても、結果的にその土地に施設を建設することに変わりはありません。だから当然オウムは届出が必要でしょ、と考えるとイメージしやすいです。

・贈与の時は届出いる?

「土地はお布施である。」として同届出を取り下げ、虚偽の負担付贈与契約書を作成し、県知事への届出を行わないまま贈与を理由として同山林の所有権移転登記を行った

オウム側がお布施(=贈与)だと強弁することで届出せずに所有権を移転したことから、贈与など対価を払わない場合は届出不要と覚えましょう

・対価の額は届出の記載項目

売買価格が総額5,000万円であるにもかかわらず、価格が著しく適正を欠くとして、熊本県知事から契約の締結を中止すべきであるなどの勧告を受けることをおそれ同価格を総額3,000万円とする内容虚偽の届出を同知事に対して行った。

オウムが金額で怪しまれることを危惧したということから、届出には対価の額を記載する必要があることを覚えましょう。そもそも地価の高騰を監視するために届出させているんだから金額を知りたいのは当然でしょう。
ただし、実際は対価の額で都道府県知事からの勧告・助言の対象となることはないので、オウムの杞憂だったかもしれません。